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札幌高等裁判所 昭和51年(ラ)29号 決定

抗告人

カネマツ合資会社

右代表者

兼松泰晴

右代理人

林信一

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は、別紙一記載のとおりである。

二(一)  抗告理由一について

先ず、本件記録及びこれに添付されている札幌地方裁判所昭和五〇年(ケ)第一九一号不動産任意競売事件記録によれば、別紙二物件目録(一)記載の土地(以下本件土地という。)、同(二)記載の建物(以下本件建物という。)は抗告人の所有であつたが、債権者有限会社栄宝商事は、本件土地及び本件建物につき有していた昭和四九年四月九日付設定登記にかかる抵当権の実行のため、同年七月二二日札幌地方裁判所に本件土地及び本件建物の入札払による任意競売を申立て、右申立による同庁昭和四九年(ケ)第九〇号任意競売事件につき、同裁判所は同年七月二三日不動産競売手続開始決定をしたこと、他方、札幌信用金庫は、本件土地及び本件建物並びに外一筆の土地につき有する根抵当権の実行のため、昭和五〇年一二月六日札幌地方裁判所に右各物件の任意競売を申立て、これによる同庁昭和五〇年(ケ)第一九一号任意競売事件の申立のうち、本件土地及び本件建物についての部分は、既に手続が進められていた前記の同庁昭和四九年(ケ)第九〇号任意競売事件の競売記録に添付されたこと、右の札幌地方裁判所昭和四九年(ケ)第九〇号任意競売事件の競売手続として、昭和五一年六月一七日午前一〇時の入札期日に、辻光幸から本件土地及び本件建物について最高価入札人としての入札の申出があり、同裁判所は、同年六月二二日午前一〇時の競落期日に、右辻光幸に対して本件土地及び本件建物の競落を許可する旨の決定を言渡したことが認められる。

ところで抗告理由一は、要するに、前示入札期日の前日である昭和五一年六月一六日頃、債権者有限会社宝栄商事及び前示記録添付にかかる任意競売申立事件の債権者札幌信用金庫(以下、債権者らというときは右両者をいう。)と抗告人との間において、前示抵当権及び根抵当権による各被担保債権につき、右債権者らは、抗告人に対して抗告人主張のような弁済の猶予をする旨の合意が成立したから、本件競売は続行すべからざるものであつたというにある。

しかしながら、抵当権実行のための不動産任意競売手続についても、その停止、取消については、民事訴訟法第五五〇条、第五五一条を準用するを相当とするから、仮令債権者が債務者に対して該抵当権による被担保債権の弁済を猶予したとしても、債権者の右猶予を承諾した旨記載ある証書が競売裁判所に提出されない限り、右競売手続は停止されるものではなく、従つて右競売手続が続行すべからざるものとなるものではない。ところで債権者らが抗告人主張のような弁済の猶予をした旨を記載した証書が原審競売裁判所に提出されていないことは本件記録上明らかであり、抗告人は、当審においても、右のような証書を提出しない。(なお、本件任意競売手続における債権者有限会社宝栄商事代理人弁護士岸田昌洋から「上申者と抗告人との間で、弁済期を猶予する旨の合意が存した。」旨の記載のある「上申書」と題する書面が当裁判所に提出されたが、右書面中の爾余の記載及びその後当裁判所に提出された前記辻光幸の上申書の記載に照らすと、果して右のような合意がなされたかは、甚だ疑問である(合意されたのは高々昭和五一年六月一七日の入札期日の延期申請をすることのみであつたのではなかつたかと疑われる)のみならず、仮りに右合意が存したとしても、右のような「上申書」をもつて、いわゆる処分証書たるべき債権者有限会社宝栄商事の弁済猶予承諾の証書とみることはできない。)

よつて抗告人の抗告理由一の主張は理由がない。

(二)  抗告理由二について

本件記録によれば、本件任意競売事件において、原審競売裁判所から本件土地及び本件建物の価格鑑定を命じられた不動産鑑定士栗谷川守男は、本件土地及び本件建物を、それぞれ金一九一二万円、金三億三三五〇万円と評価し、同裁判所は、右評価額に基づき本件建物の最低入札価額を金三億三三五〇万円と定め、本件建物につき昭和五〇年六月一九日午前一〇時の入札期日を実施したが、入札の申出がなく、次いで本件土地及び本件建物の最低入札価額をそれぞれ金一九一二万円、金二億六六八〇万円と定め、一括入札払の売却条件を付して、同年七月一七日午前一〇時の入札期日を実施したが、入札の申出がなかつたこと、それでその後、七回に亘つて本件土地及び本件建物の最低入札価額を順次逓減しながら、新入札期日を重ね、最後に、昭和五一年六月一七日午前一〇時の入札期日に最低入札価額を本件土地につき金一〇一七万円、本件建物につき金一億四一八〇万円(右各最低入札価額は、記録上明らかなその前回の同年五月一三日午前一〇時の入札期日における本件土地、本件建物の各最低入札価額である金一一三〇万円、金一億五七五五万円と比較すると、その一〇パーセントを低減した額であることが計算上明らかである。)と定めて、一括入札の売却条件を付して、右の最後の入札期日を実施したところ、ようやく本件競落人となつた辻光幸が金一億五二〇〇万円で一括入札の申出をなし、同人が最高価入札人と決つたこと、原裁判所は、同年六月二二日午前一〇時の競落期日に同人に右入札価額で競落を許可する旨の決定を言渡したことが認められる。

ところで、栗谷川守男による本件土地及び本件建物の評価額は、その理由中、評価額算出の過程の説示がやや簡に失するきらいがあるが、その評価書の摘示する資料、特に本件土地及び本件建物の昭和五〇年度固定資産評価額(本件土地は金一九三九万八九〇〇円、本件建物は金一億三二七五万七二〇〇円)に照し不当なものであつたとは認め難い。抗告人は、本件土地の価額は、金九一九六万八〇〇〇円に達すると主張するが、これを認めるに足りる資料はない。また、抗告人は本件建物内の造作、什器、備品の価額は、合計金四八〇〇万円に達し、これがすべて本件建物の従物であつて、本件抵当権の効力が及ぶと主張するものの如く、そのことを前提として前示評価書は右造作等の価額を考慮に入れていないと主張するが、本件建物内の造作、什器、備品のすべてに本件抵当権の効力が及ぶものではなく、右効力が及ぶものの価額は本件建物の前示評価額に当然斟酌されており、什器等の右効力が及ばないものの価額が斟酌されないのは当然であるから、抗告人の右主張も失当である。以上のとおりであるから原裁判所が前記鑑定人の評価を採用してなした前記最初の最底入札価額の決定及びその後の新入札期日における最低競売価額の逓減にはなんら違法の点は認められず(競売法第三四条、第三一条、民事訴訟法第六七〇条一項参照)、辻光幸の申出た前記入札価額が最後の最低入札価額を超えるものであつたことは明らかである。

右のとおりであるから、昭和五一年六月一七日午前一〇時の入札期日において本件土地につき金一〇一七万円、本件建物につき金一億四一八〇万円をもつて最低入札価額として右期日を実施し、前記辻光幸の申出た前記入札価額金一億五二〇〇万円をもつて最高価入札価額とし、同人に右入札価額をもつて本件土地及び本件建物の競落を許可した本件競売手続は、毫も法律上の売却条件に牴触してなされたものではなく、その他競売法第三二条が準用する民事訴訟法第六七二条所定のいずれの事由にも牴触したものとは認められない。

よつて抗告理由二の主張は理由がない。

(三)  抗告理由三について

本件任意競売手続において本件土地及び本件建物の最低入札価額が前示のとおり逓減されて最終的に前示のような最低入札価額が定められ、前記辻光幸がこれを超える入札価額の申出をし、原審競売裁判所が同人に対して右価額をもつて本件土地及び本件建物の競落を適法に許可したものであること前示のとおりであり、右競落価額が低廉だからといつて本件競落許可決定が憲法第二九条に反して抗告人の財産権を侵害するものとは到底認めることができない。

よつて抗告理由三の主張も採用できない。

(四)  その他、本件記録を精査しても、本件競落許可決定には、これを取消すべき違法の点は発見できない。

三  よつて本件抗告は理由がないから民訴法第四一四条、第三八四条第一項に則りこれを棄却することとし、抗告費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(宮崎富哉 塩崎勤 村田達生)

別紙一 抗告の趣旨〈省略〉

別紙二 物件目録〈省略〉

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